祝映画化!伊坂幸太郎の「アイネクライネナハトムジーク」を読んだ感想

2019_0930 サムネ小説

今回ご紹介する作品は、伊坂幸太郎さん著『アイネクライネナハトムジーク』です。

人気作家の伊坂幸太郎さんですが、実は恋愛ものの作品が非常に少なく、この作品はそんな伊坂幸太郎さんとしては珍しい「恋愛」がテーマになっています。

ただ、きゅんきゅんやどろどろとした恋愛ど真ん中というものではなく、爽やかであっさりとした、それでいてどこか懐かしいような感情を覚えさせてくれる作品だと個人的には感じました。

この小説を読み終わった時、多くの方が恋をしたくなるのではないでしょうか。

ちなみに、2019年9月に三浦春馬さん・多部未華子さん主演で映画化もされて話題になりましたね。僕はまだ映画を観ていませんが、時間があれば観に行こうかと思っています。その際は映画のほうのレビューもしたいですね。

 

 

以下、少しばかりネタバレを含みますので、まだ読んでいない方は十分に注意してください!

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この本のこと

基本情報

著者:伊坂幸太郎
発売日:2017/8/4
出版社:幻冬舎
ページ数:341ページ(文庫)

あらすじ

妻に出て行かれたサラリーマン、声しか知らない相手に恋する美容師、元いじめっ子と再会してしまったOL……。人生は、いつも楽しいことばかりじゃない。でも、運転免許センターで、リビングで、駐輪場で、奇跡は起こる。情けなくも愛おしい登場人物たちが仕掛ける、不器用な駆け引きの数々。明日がきっと楽しくなる、魔法のような連作短編集。
                     

                    【アイネクライネナハトムジーク/伊坂幸太郎】

登場人物紹介【ネタバレ込み】

『アイネクライネナハトムジーク』は、『アイネクライネ 』『ライトヘビー』『ドクメンタ』『ルックスライク』『メイクアップ』『ナハトムジーク』の6つの短編集で構成されています。

タイトルによって主人公は替わってきますが、『アイネクライネ 』に出てきた人物が『ドクメンタ』に出てきたり、『ライトヘビー』の数年後が『ナハトムジーク』で描かれていたりなど、6つの短編集がそれぞれどこかで繋がっています。

その分、登場人物が多く時系列がやや複雑ですが、それでもすらすらと読めてしまうのが伊坂幸太郎さんの構成力の凄さでしょう。

ここからは、各章ごとの主な登場人物を紹介していきます。

アイネクライネ 

この章は、マーケット会社の社員・佐藤の視点で物語が進んでいきます。

アイネクライネはドイツ語で「小さな」という意味を持ちます。

・佐藤
『アイネクライネ』の主人公。マーケティング会社に勤務していて、とある失敗のために夜の街頭アンケート調査を行うことになる。調査中、「シャンプー」と手の甲に書いた女性と出会う。

 

・藤間
佐藤の会社に勤める佐藤の先輩。会社ではシステム管理を担当しているが、妻と娘が家を出て行ったことによる動揺で会社内でいきなり叫びだし、それに驚いた佐藤が、持っていた缶コーヒーを媒体にこぼしてしまい、街頭調査を行うことになった。現在、休職中。

 

・藤間の妻
ある日突然、娘を連れて家を出て行った。

 

・シャンプーの女性
佐藤の街頭調査に協力してくれた女性。手の甲に「シャンプー」と書いていて、理由は特売日なので買うのを忘れないため。求職中のフリーターで、後に道路工事のアルバイト中に佐藤と再会する。

 

・ボクサー
佐藤が街頭調査をしている時、駅前のモニターで中継されていたヘビー級タイトルマッチの日本人挑戦者。

 

・織田一真
佐藤の大学時代の友人。無軌道ででたらめな性格だがどこか憎めない。突飛な発言をしてよく周りを振り回す。チェーン居酒屋の店長をしている。

 

・織田由美
佐藤の大学時代の友人で織田一真の妻。美人で大学の頃から人気が高かったが、織田一真と学生結婚をして一真と共に大学を辞める。現在は二児の母。

 

・織田美緒
織田家の長女で6歳。佐藤とはタメ口で話す。

 

・織田一樹
織田家の長男。

ライトヘビー

この章は、美容師の美奈子の視点で物語が進んでいきます。

時間軸は『アイネクライネ 』とほぼ同じです。

・美奈子
美容師。板橋香澄をよく担当している。彼氏がいないため、板橋香澄の紹介で彼女の弟とたまに電話だけするという妙な関係を持つ。どちらかというと格闘技は苦手。地元が仙台で、織田由美とは同級生で友人。

 

・板橋香澄
美奈子に担当してもらう客。旧姓は小野香澄。都内で働くOLで、外見はモデルのように綺麗で若々しい。美奈子に弟を紹介する。

 

・ウィンストン小野(小野学)
プロボクサー。板橋香澄の弟で、美奈子には「事務職」で働いてると嘘をついていた。ヘビー級の王者になったことで美奈子に告白する。「アイネクライネ 」に出ていたボクサーと同一人物。

 

・山田寛子
化粧品メーカーに務める美奈子の友人。美奈子とはヘヴィメタバンドのライブで知り合い仲良くなった。彼氏と別れたばかりで心が晴れやかではなかったが、斉藤さんの歌を聴いてバリバリ働くことを決意する。

 

・日高亮一
山田寛子と同じく、ヘヴィメタバンドのライブで仲良くなった美奈子の友人。会社を辞めるかどうか迷っていたが、斉藤さんの歌を聴いてその夜には辞めることを決めた。

 

・斉藤さん
美奈子が住んでいる最寄り駅近くで商売している男性。商売といっても商品を売っているのではなく「歌」を売っている。100円を支払いその時の気持ちを伝えると、曲の一部が再生される。その曲を聴いた客は、不思議とこれからの自身の進む道が見えてくる。

ドクメンタ

この章は、『アイネクライネ 』にも登場した「藤間」が主人公になって物語が進んでいきます。時間軸は『アイネクライネ 』の半年後ですが、藤間の過去も描かれていきます。

ドクメンタというのは、5年に1度、ドイツで開催される現代美術の展覧会のことです。物語の舞台が免許センターなので、『ドクメンタ』は同じく5年に1度の自動車運転免許の更新にかけられています。

・藤間
仕事は丁寧で優秀だが家中ではずぼらな性格。妻が娘を連れて出て行ったことで、仕事が手につかなくなり休職していたが復帰した。離婚はしていないが、妻とはまったく連絡が取れない。娘とは妻の目を盗んで時折電話をしている。免許更新の度にある女性と必ず会うようになり、近況報告をする仲になる。

 

・藤間の妻
ある日突然、娘を連れて家を出て行く。藤間の大雑把な性格には前から辟易としていた。

 

・藤間の娘
母に連れられ父親とは別で暮らしている。父親のことを気がかりにしていて、母親の目を盗んでよく藤間に電話をかけてくる。

 

・免許センターで会う女性
10年前、5年前と、藤間が免許更新に来る度に出会う女性。藤間とは誕生日が1日違いで、藤間と同じくずぼらな性格なので更新期間の最後の週に更新する。境遇も藤間と似ており、息子が一人いて最近夫が家を出て行った。だが、今回会った際には夫婦間の仲が戻ったことを明かし、さらに藤間に対してあるアドバイスをする。

 

・女性の息子
10歳だが実年齢よりしっかりしている。浮気=皆殺しと思っている。

 

・佐藤
『アイネクライネ 』に登場した藤間の後輩。藤間を励ますためにウィンストン小野のサインを藤間に贈る。

ルックスライク

『ルックスライク』は、「高校生」と「若い男女」の2つで構成されています。

「高校生」は久留米和人、「若い男女」は笹塚朱美の視点で物語が進みます。

時間軸は、「高校生」が『アイネクライネ 』から10年後で、「若い男女」は「高校生」の約20年前です。

・久留米和人
「高校生」の主人公。織田美緒の同級生で彼女のことが気になっている。父親と瓜二つの外見をしていいるが、父親のようにはなりたくないと思っている。

 

・織田美緒
『アイネクライネ 』に登場した織田一真・由美の娘。母親と同じく綺麗な外見をしていて、同級生や先輩から注目を浴びている。久留米和人のことはゲイだと認識していて、和人に仙台駅の地下駐車場に一緒に来てほしいとお願いする。

 

・深堀先生
久留米和人と織田由美が通う高校の英語教師。旧姓は笹塚朱美で「若い男女」の主人公。大学時代のバイト先で、久留米邦彦に助けられたことがきっかけで交際するも破局。現在は別の男性と結婚している。久留米和人を一目見て、すぐに邦彦の息子だと気づいていた。胸が小さく、邦彦は胸の大きい人が好きだとずっと思っていた。

 

・久留米邦彦
和人の父親でサラリーマン。20年近く前に笹塚朱美を助けて付き合うことになる。その時使った手法が、後に息子の和人や由美をも救うことになった。ちなみに、奥さん(和人の母親)は胸が小さい。

メイクアップ

『メイクアップ』は化粧品メーカー勤務の窪田結衣の視点で物語が進んでいきます。

個人的に、この章はほかの章とそこまで関連が深くないような印象です。

・窪田結衣
化粧品メーカーに務めるOLで『メイクアップ』の主人公。旧姓は高木結衣。高校時代にいじめられた経験を持つ。当時気になっていた野球部の同級生と結婚。

 

・山田寛子
『ライトヘビー』にも登場。宣言通り仕事一筋で、広報部の部長補佐(実質、部を取り仕切っている)になっている。

 

・小久保亜季
学生時代に窪田結衣をいじめていた張本人で、当時はクラスの中心人物だった。結衣と再開するも、相手が結衣だとは気づいていない(結衣は気づいている)。

 

・佳織
窪田結衣の同僚で彼氏持ち。

ナハトムジーク

この章は、ウィンストン小野を主軸にして、それを取り巻く人たちの物語が描かれています。

ラストにふさわしく、これまでの登場人物がふんだんに出てきます。時間軸が頻繁に変わるので少し複雑ですが、最後のシーン(現在)は『アイネクライネ 』から19年後です。

ちなみに『ナハトムジーク』は「夜の曲」という意味があります。

・小野学(ウィンストン小野)
『ライトヘビー』にも登場したプロボクサー。19年前にヘビー級の世界チャンピオンになり、当時、織田家のマンション近くでいじめられていた中学生を救う。9年前にオーエン・スコットと戦うが判定負け。

 

・小野美奈子
小野学の妻。19年前、地元仙台に学と観光に来たついでに織田家に立ち寄る。現在は息子がいて、ウィンストン小野が出演しているテレビ番組を観ている。

 

・織田由美
『アイネクライネ 』にも登場。19年前、美奈子の夫が「ウィンストン小野」だと知り驚愕する。

 

・織田一真
『アイネクライネ 』にも登場。9年前、美緒が藤間亜美子と東京旅行に行った際、内緒で後をつけていた。そこで美緒たちはトラブルにあうが、一真が久留米邦彦と同じ手法を用いて助ける。また、同じ年にウィンストン小野の試合を美緒と亜希子と観戦している。

 

・織田美緒
『アイネクライネ 』『ルックスライク』にも登場。9年前、藤間亜美子との東京旅行中にトラブルに巻き込まれるが、後をつけてきた一真に助けられる。久留米和人は『ルックスライク』以降も親交があるもよう。

 

・久留米和人
『ルックスライク』にも登場。クラスの合唱練習で、音程が外れる同級生に口パクを提案した担任教師に抗議する。

 

・藤間亜美子
久留米和人の同級生で織田由美の親友。『アイネクライネ 』や『ドクメンタ』に登場した藤間の娘で、現在は母親と2人暮らし。

 

・藤間の妻
『ドクメンタ』にも登場。現在は藤間と離婚したが苗字は変えていない。彼女の会社に本社から出張に来たのが『メイクアップ』の窪田結衣の夫。

 

・藤間
『アイネクライネ』『ドクメンタ』にも登場。現在は妻と離婚しており、19年前、娘の亜美子とウィンストン小野の試合を観に行っている。

 

・佐藤
19年前、妻が出て行って落ち込んでいる藤間のために、ウィンストン小野と繋がりのある織田一真・由美に頼んでサインをもらいに行く。その途中で、いじめられている中学生を見かけて一真に連絡する。「シャンプーの女性」と交際している。

 

・姉
いじめられてた中学生の姉で女子高生。弟のことを常に心配している。

 

・弟
19年前、いじめられていたところをウィンストン小野に助けられた中学生。耳が悪く補聴器をつけている。9年前、ウィンストン小野がオーエン・スコットとの対戦中に満身創痍になっていたところ、ラウンドボーイとして登場し喝をいれる。現在は世界で活躍するモデルになっている。

 

・オーエン・スコット
9年前、ウィンストン小野と対戦して判定勝ち。

 

・松沢ケリー
ウィンストン小野の恩師。現在は癌で亡くなっている。

 

・テレビ番組の司会者
現在、小野学が出演しているテレビ番組の司会者。織田由美や久留米和人の同級生で音痴だった生徒。結局、和人の提案で合唱の前に漫才を披露。それがきっかけで漫才師になる。

感想

『アイネクライネナハトムジーク』に登場する人物を紹介してきましたが、改めてめちゃくちゃ多いですね(笑)。しかも、主な登場人物を抜粋しての紹介なので、実際はさらに多くの人たちが登場します。

「こんなに登場人物が多いと読むの大変なんじゃ」と思う方もいるかもしれませんが、そこは気にしなくて大丈夫です。実際、ほとんど読書をしない僕の友達も「すらすら読めた」と、一日で読破していました。

テンポが良く、それぞれの物語がほどよく繋がっているので、続きが気になって仕方がなかったのでしょう(笑)。

僕の感想も一言だけ言わせてもらうと、群像劇の恋愛ものでこれ以上の作品はないと思っています。伊坂さんお得意の大どんでん返しのような展開はありませんが、人と人との繋がりを感じさせるほっこりした作品です。

よくある恋愛ものの小説に飽きてきた方にはぜひ読んでもらいたい一冊となっています。